有限会社道建設
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古民家コラム

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Chapter 01
古民家再生:佇まいと性能の狭間で

『古民家再生』という物語

民家の構造材を調査すると、以前の民家の再使用ということがよくあります。
民家は森に育った木を使い、繰り返し次の家に再使用されて、最後には土に返りまた次の森を育てる。
民家ではほとんどの材料が同じような自然素材で構成されています。

古民家再生の相談を受け現地に伺うと、歴史を重ねた古さの中に、
木組みの凜とした美しさに圧倒されてしまいます。
構造が即ち、意匠という逃げ場のない緊張感の中で積み上げられた潔さがあります。

木の力強さ、大工の造作の美しさを前にしたとき、私達はそれらに対し謙虚に臨まざるを得ません。
歴史、風土、環境から育まれた木造の建築様式は全てに理由があります。
そして、それらを見事に意匠に繋げています。しかも無用に覆い隠すことなく。

誰もが知る名建築ならいざ知らず、普通の民家でさえ先人の気骨を感じます。
その佇まいの前では誤魔化しは通じない。
全て見透かされているようです。
その一方、謙虚でありながらも、正面から堂々と対峙する気概も大切です。
こういったことを背景に古民家再生に取り組んでいるつもりです。


Chapter 02
古民家の佇まいと断熱性能 1

古民家再生の相談が年々増加してきています。
その相談内容は様々ですが、聞かなくても分かる悩みが何点かあります。

最初に最大の悩みの一つ、冬の寒さの解決方法に関してお話していきたいと思います。

「日本の家造りは夏をもって旨とすべし」という徒然草の吉田兼好の言葉通り、日本の家造りは夏対策に重点が置かれている様です。
日本の風土は高温多湿という人間にとっても家にとっても厳しい条件があり、そのような言葉になったと思います。

旧来の家造りは木、土、植物という自然のもので作り上げられて、
素晴らしい調湿性能を発揮しています。
その他、緯度を計算に入れ日射を遮る深い軒先や広縁、建具を取り払えば大きく開放された空間になり
空気の淀むことのない間取りなど、高湿多湿に対する先人の知恵には敬服するばかりです。


Chapter 03
古民家の佇まいと断熱性能 2

古民家の天井の断熱についてお話します。

昔は家人の空間として、炊事の為のくどや、食事の為の囲炉裏、暖を採る為の掘り炬燵や火鉢などがありました。
室内で火を使い煙が出るので、必然的に天井を貼る場所ではありませんでした。
煙に燻された竹や萱にとっては防腐、防虫などの素晴らしい効果を発揮しましたが、空間の断熱という目的は二の次でした。

床の間のある客人を通す上座などの和室は天井が貼られていましたが、
近年になり、竃や囲炉裏が無くなり家人の生活空間にも天井が貼られるようになりました。
しかし、まだそこには断熱の概念はなく板一枚が貼られるのみのものでした。


Chapter 04
古民家の佇まいと断熱性能 3

古民家の壁と床の断熱についてのお話です。

古民家の壁は、内外部共に真壁構造の場合が多くあります。
土壁には素晴らしい性能がありますが、断熱に関して言えば、熱伝導率で評価すれば
グラスウールの十分の一以下の能力で、すぐれているとは言い難いです。

しかし、古民家は冬場の寒さはともかく、夏は涼しいと言われます。断熱性能が悪ければ、冬は寒く、夏は暑くなるはずです。
これは風通しが良いことや軒の深さなどということもありますが、土壁の持つ調湿性能が、夏の涼しさを実現しています。
室温28℃で湿度が60%以下なら涼しく感じ、80%を超えると蒸し暑く感じるようになります。
これはエアコンで湿度を下げずに除湿モードにしただけで涼しくなるのと同じことです。


Chapter 05
古民家の佇まいと断熱性能 4

古民家の開口部の断熱についてお話します。

一般的な住宅の冬の暖房時の熱損失は、開口部から58%流出するといわれています。
古民家の開口部はとても広く、開放的なのでそれ以上です。
単板ガラスのサッシに取り替えられていることもありますが、
旧来の木製建具の場合は気密性もありません。最初に取り組むのが、それらを断
熱サッシに取り替えるということになります。

何も考えなければ、現代工法のようにサッシを取り付け、サッシ枠を廻し、
大壁で仕上げれば全て古い材料が覆い隠され綺麗になりますが、それは古民家再生である必要はありません。
古民家特有の風合いを優先させる場合、風防の為の合い杓りなどの対策をしながら、
木製建具にペアガラスを特別に造作することもあります。


Chapter 06
古民家の佇まいと断熱性能 5

広縁の断熱については、今までに何度か触れましたが、ここでは広縁だけについて述べてみます。

現代工法で建てられた家の広縁は、布基盤で固められ、サッシが取り付けられ、断熱材で囲まれた完全な室内と定義できます。

一方、古民家でも古く時代を遡ったものを拝見すると、広縁は室内ではなく、外部だと解釈できます。
東石で支えられただけの基盤、断熱材も懐も無い床、サッシはおろか木製建具もなく
雨戸だけの開口部、虹梁と化粧垂木の隙間などを見ると、殆ど外部と言って差し支えないくらいの空間です。